紅林沙生子

はじめに

“Connecting the Dots(点と点を線で繋ぐ).”これは、スティーブジョブス氏がスタンフォード大学の卒業式で述べたスピーチから借りてきたことばです。私の周りには、津田塾に入学した当初から将来のビジョンをしっかり描き、それに向けてコツコツと行動する先輩や友人が多くいました。一方で、目の前の授業や課題に必死で1ヶ月後の自分さえまともに想像できずにいた私は、そんな彼女たちをとても羨ましく思うと同時に、ちょっとした焦りのようなものも感じていました。ですが、1年次の夏休みの体験をきっかけに、様々な人や機会に恵まれて現在に至っています。では、ひと夏の経験という「点」がどのようにして私の大学生活の軸となる「線」になったのか。これからご紹介します。
 

CIEE(国際教育交換協議会)との出会い

  大学生の夏休みはまとまった時間を自由に使えるため、「海外に行きたい」という漠然とした思いは入学当初から持っていました。
ですが、当時の私は「現地で何をしたいか」まで考えが及びませんでした。なので、「海外で何をしたいか教えて」と周りに言われると全く答えられない状態がずっと続きました。
そんな折、学内で見つけたのがCIEE(国際教育交換協議会)の海外ボランティア説明会のチラシです。実際に説明会に足を運んでみると、中高生の頃から「海外ボランティア」という響きに憧れていた自分を思い出しました。また、ボランティアでの海外渡航なら学内の奨学金を申請できることも知り、「これだ!」と直感が働いたのです。ただ、単身で海外に出かけるのは初めてだったので、両親と相談しプログラム内容や現地の治安等も考慮した上で、数あるボランティアのうちからカナダでのボランティアを選択しました。

カナダボランティアでの経験

  トロント郊外にある大規模農園に通い、自然保護のボランティアをしました。農園のスタッフの方と一緒に朝から夕方までひたすら草むしりや種まき、農作物の収穫をし、活動がない日はホストファミリーと共に過ごす生活を約1ヶ月送りました。これだけならカナダでなくとも他の国や地域(場合によっては日本国内)でも体験できることかもしれません。
しかし、現地に行ったことでこの体験がカナダでなされることの意義を確認できました。それは、カナダが「移民大国」であること。農園のスタッフもホストファミリーも、現地で出会った人の多くが移民的背景を持つ人たちでした。そんな彼らの話を聞くうちに「国境を越えて移動する人々」に関心を持つようになり、多文化・国際協力コースに進む際の志望理由にも繋がりました。研究テーマこそ変わりましたが、この関心が今日の私の研究の原点であることには変わりありません。

CIEEインターンへの応募

  カナダから帰国した後、CIEEの海外ボランティアプロジェクトに参加した学生が集う帰国後交流会に参加しました。その交流会は、前年度に私と同じように海外ボランティアに参加した先輩方(以下インターン生)が主催したものであり、この夏の経験を「楽しかった」で終わらせないためにどうすれば良いのかを考えるきっかけを得ることができました。
 インターン生一人一人が熱心に話すその姿がとても輝いて見えて、「私も先輩方のあとに続きたい!」という思いが自然とこみ上げてきました。「インターンをやらなかったら絶対に後悔する」と直感で思った私はインターン選考に即応募し、無事インターン6期生として採用されました。
 

インターン活動

 CIEE日本代表部(東京都渋谷区)でのインターンシップでは、海外ボランティアに参加する学生のための4つのイベントの企画立案と運営、ホームページに掲載する記事作成、及び学内外でのPR活動が主な仕事でした。仕事内容そのものはこの一文に簡単に集約できますが、その過程には私にとってチャレンジングなことが主に2つありました。
 1つ目は、今まで全く接点のなかった人たちと協力して各イベントを成功させること。良くも悪くも津田塾の雰囲気を当然だと思っていた当時の私は、他大学に在籍するインターン生との密な関わりの中で、ある種の「異文化」を感じて何度も「カルチャーショック」を受けました。初対面の相手にも活動初日から積極的にコミュニケーションを取りにいく彼らに驚きを隠せなかったことは今でもよく覚えています。また、多くを語らなくても私のことを理解してくれる家族や友人に恵まれすぎたせいか、「こんなことは言われなくても分かってよ!」と同期に対して思ってしまうことが何度もありました。ですが同時に、これまで私自身の交友関係・行動範囲がいかに狭かったかを実感できた瞬間でもありました。そんな彼らと共にしたインターン活動は毎回とても刺激的でした。活動を終えて1年以上が経った今でもときどき連絡を取り合っています。
 2つ目は、人前で自分の思いを素直に伝えること。話す内容自体はすぐに思いつくのですが、いざプレゼンテーションをしてみると毎回スタッフの方から飛んでくるのが「思いが伝わってこない」というご指摘。何度やっても上手くいかない自分にもどかしさを覚えずにはいられませんでした。しかし、インターン仲間やスタッフの方々に、今まで心の内に留めていた思いや考えを正直に伝えたところ、「初めて本音が聞けた」と言われたことでようやくいろいろなものが吹っ切れました。そして、私たちが主催する
最後のイベントでの体験談発表では、スタッフの方からお褒めの言葉を頂いただけでなく、話している私自身も思いっきりエンジョイできたことが強く印象に残っています。
今でも人前で「自分の気持ちを相手に正直に伝えること」に対する苦手意識が完全に抜けきった訳ではありませんが、この経験を通して「自分の思いをことばに乗せて人と関わることの難しさと楽しさ、面白さ」を知ることができたように思います。
 このように、インターン活動を通して学内では出会えなかった仲間と出会い、これまで蓋をしてきた苦手と向き合うことができました。

現在

 インターン活動を終えてからは、2年次より履修していた日本語教員養成過程での学びを活かして、地元の日本語教室でボランティアに参加しています。
参加当初はそれほど意識していませんでしたが、インターンでの経験があったからこそ、津田塾とは異なる学外のコミュニティにも積極的に飛び込んでいけたのだと今は実感しています。

終わりに

ぼんやりと抱いていた憧れから挑戦した海外ボランティアの経験が、新たな経験という「点」を「線」に繋ぐ「点」となることは、入学時には想像できませんでした。
将来の夢から逆算して自分のやるべきことを洗い出し、一つ一つ着実にこなせる人には今でも憧れています。しかし、そうでないからといって焦る必要は全くないと今強く実感しています。一つ一つの経験を「点」として大切に持っておけば、あとで「線」となって繋がるはずです。